だから私は雨の日が好き。【花の章】
彼らが身支度を整え、出口に向かってくる。
『お騒がせしましたァ』『美味しかったです!また来ます』など、若者らしいけれど礼儀正しい挨拶をして帰って行った。
あれだけ酔ってもちゃんと帰っていけることに好感を持ったのは言うまでもなく。
森川君の周りにはきちんとした男の子達がいることを、妙に納得してしまった。
周囲の友人で男の質は決まる。
それを、私はよく知っていた。
この店で相手を選ぶ基準だって、実はそういうところを見ていたりするから。
扉が閉まると僅かに入ってきた冷たい空気が入口付近に残る。
すぐに暖かくなるはずなのに、それが冷たいままなのが気になって出口に目を向けた。
そこには。
真っ直ぐ私を見つめる森川君が立っていた。
目が合うと、出口を出ずにそのまま私の方へと歩いてきた。
無言で見つめられるのは居心地がよいものではない。
それなのに、なぜか目を逸らすことが出来なかった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様。楽しめた?」
「はい。あの、お騒がせしてすみませんでした。悪い奴らじゃないんですが、どうもノリが学生のままで」
「気にしないで。よくお店に来るから、全然平気よ。それに、みんな礼儀正しかったわ」
「それならよかったです」
わざわざ私にまで挨拶をする律儀さに笑った。
真っ直ぐな子。
企画営業部でしっかり育てられている彼に、嬉しいと同時に切なくなった。