だから私は雨の日が好き。【花の章】
「亜季!・・・って、悪い。話し中か?」
「すいません。もう帰りますので、大丈夫です」
「あぁ、すみません。先程はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。お騒がせしました」
「自己紹介が遅れました。亜季の兄の杉本夏貴(スギモトナツキ)といいます。ここのオーナーをしています」
「そうだったんですか。私は同じ会社に勤めています、森川輝(モリカワヒカル)と申します」
仕事でするような挨拶を午前三時に出来る森川君を、驚いたような顔で見つめてしまった。
この時間になったら、もう少しハメを外していても誰も咎めたりしないだろうに。
兄貴も同じことを思ったようで、面を食らったような顔をしていた。
その間抜けな顔が自分とよく似ているのかと思うと、少し落ち込んだ。
「あんなに飲んだのに、まだそんなにシラフなんですね」
「いえ、もう限界ですよ」
言った言葉には真実味があった。
表情が変わらない分だけ感情が言葉に出やすいんだな、と感じた。
兄貴もそんなに鈍感ではないが、私ほど敏感でもない。
森川君の言葉に対して『ホントかよ』みたいなオーラを放っていた。
「良かったら、もう少しだけ付き合いませんか?閉店までは三十分ほど時間もありますし」
「え・・・?はぁ・・・」
「ちょっと!帰るところで引き止めるのやめなさいよ。森川君も、無理しなくていいから」
「いいじゃねぇか。お代はさっきの分で十分ですし、一杯だけ」
「・・・じゃあ、遠慮無く」