だから私は雨の日が好き。【花の章】
驚く私を尻目に、森川君は兄の誘いを了承した。
こんなところまで律儀でなくてもいいのに、と心の底から思った。
私に『隣、いいですか?』と確認まで取ってくる姿は、もはやプライベートとはかけ離れた対応で。
仕事の顔をしたままの彼に同情し、座ることを促してしまった。
「何飲みます?」
「・・・焼酎の水割りを」
見た目通り渋い選択をした彼は、どこか大切そうにその飲み物をオーダーした。
なんてことのない飲み物のはずで特に意味はないはずなのに。
切なさといとしさを込めた呼び名で、その飲み物の名前を呼んだ。
「すみません。すぐ帰りますから」
「無理しなくてもよかったのよ?」
「酒を勧められたら断らない、というのが染み付いてるんです」
困ったように少しだけ表情を緩める彼は、さっきよりも少しだけ幼い。
言った言葉は営業ならではの発言に聞こえる。
けれど、それが違うことを私は知っていた。
森川君の所属する企画営業部は社内一の『酒豪部署』として知られている。
それは部長を筆頭に主任クラスが全員、驚く程お酒が強いからだ。
そんな中にいれば、お酒を断ることなど出来ないのだろう。
「お待たせしました。じゃあ、あとは亜季に任せた!」
「はぁ!?引き止めたのは兄貴でしょう!?」
「俺、今度の街おこしイベントの打合せするから、適当に帰れよー」