だから私は雨の日が好き。【花の章】
同情
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「落ち着きましたか?」
水を片手に、彼は私の隣に腰掛けた。
私は小さく頷くことしか出来なかった。
冷えたペットボトルの蓋は軽く緩められており、私がすぐに飲めるようにと気を遣ってくれたのがわかる。
受け取った水を一口飲み込むと、そのペットボトルを手に取り蓋をしてくれた。
「・・・ごめんね。こんなところにまで、来させて」
「いえ。あの状況では仕方ないと思います」
そう。
仕方がなかったのだ。
突然泣き出した私を兄の店から連れ出してくれた森川君は、優しかった。
『タクシーに乗れますか?』『家はどこですか?』と、理由も聞かずなんとか私を家に帰してくれようとした。
その問いかけに答えることが出来ず、ただ泣きじゃくる私。
彼は困惑したことだろう。
どうしたものか、と。
人通りの多い道をあるけば、必然的に目に付く。
泣いている女と手を引く男という組み合わせは、見ただけで何か誤解をされかねない。
兄の店は繁華街の中心に近く、大きな通りもすぐにある。
彼は冷静な判断で人の少ない道を選んでタクシーを探してくれていた。
しかし、頼みの私が何も言えないのを見ると。
私を抱き抱えてラブホテルに連れて来たのだ。
その時の私は『あぁ、そういうことか』と妙に納得してしまい、抵抗などしなかった。
このまま流されてもいい、と。
けれど彼は違った。
ソファーに私を座らせ、抱き締めることも無理矢理何かをするわけでもなく。
私が泣き止むまで待ってくれた。
その間、温かい手で頭を撫で続けてくれた。