だから私は雨の日が好き。【花の章】
何を話すわけでもない。
無言の空間に耐えられず、ただビールを煽る。
元々口数が少ないであろう森川君から、会話が振られることはなかった。
かと言って、私から何を話しかけたらいいのかも分からなかった。
時折、缶がペキという音を立て炭酸が泡立つ音がする。
あまりに緊張感のある空間に、ここがラブホテルであることを忘れそうだった。
落ち着かなくなり自分の鞄から煙草を取り出す。
その気配を感じて、森川君がふと目線を寄越した。
「あの・・・」
「何?」
「煙草、頂いてもいいですか?」
「え?あぁ、どうぞ」
煙草とライターを手渡すと、小さく『すいません』という言葉が返ってきた。
大きな体で私のとても細い煙草を吸う姿は、とてもアンバランスだ。
火を付けると私に煙草を返してくれる。
ほんの少し触れた手は、やはり温度の高い手だった。
「私ので良かったの?自分のもあるでしょう?」
「・・・えぇ」
「好きに吸っていいわよ。テーブルに置いておくから」
軽く頷く森川君を見て、私も紫煙を吐き出した。
お酒と煙草は相性がいい。
この二つは、私を救ってくれる気がしていた。
煙草を吸いながらビールを飲み込む森川君。
大きく一口ゴクリと喉を鳴らして、ビールの缶を軽く潰した。
「もう飲んだの?」
「はい」
なんてことないように言う彼は、さっきよりも熱を帯びた目をしていた。
よく見ると感情や表情が滲み出る彼は、色気と幼さの中間にいるようだった。