だから私は雨の日が好き。【花の章】
羨望
「乾杯」
二人でビールのジョッキを合わせて、テーブルで向かい合う。
とりあえず、打ち合わせという名目があるのでイベントの最終確認をする。
入り時間やVTR準備、クライアント対応や必要スタッフ。
当日に必要なことを二人であぶり出していく。
販売ブースの設置場所や百貨店との事前確認事項など、細かなところまでしっかりと打ち合わせをした。
確認をして櫻井さんから『問題ない』という太鼓判をもらった。
そのことが、俺をとても安心させた。
「後は、うちにある資料との照らし合わせだな」
「はい。先方の関東圏でのイベント資料ですよね。確か細かなチェック項目があったかと」
「そうなんだよ。大手だから、しっかり対応しないとな」
「そうですね」
「それにしても、しっかり準備したな。もう森川一人でも大丈夫じゃないか」
櫻井さんは嬉しそうにそう言って、大分ぬるくなってしまったビールを一気に飲み干した。
さすがに打ち合わせ中はほとんど口をつけずにいたので、二人とも喉がカラカラだった。
「そんなことないですよ。結局こうやって確認してもらってるんですから」
「それは上司としての務めだからだ。本当は全然心配してねぇよ」
そう言って、新しいビールを二つカウンターに向かって注文をした。
慌てて自分のジョッキを飲み干して、空にする。
櫻井さんは『全然心配してねぇよ』と言った。
仕事を任せてもらえる充実感は、俺をとても嬉しい気持ちにさせた。