だから私は雨の日が好き。【花の章】
二缶目のプルタブを開け、更にビールを飲む森川君。
あまりのペースに少し心配になったので、少しだけ彼を見つめてみた。
視線に気付くことなくテーブルのある一点を見つめたまま、彼は一度目を瞑った。
「・・・杉本さん」
「・・・何?」
自棄に真剣味を帯びた彼の声に、少しだけ背筋が伸びる。
何を言われるのかも分からず待っているという時間は、とても長く感じる。
目を開き、それでも私を見ない森川君。
その目の先は一体、何を見つめているのだろう。
「こんなことを言うのは、失礼と思うんですが・・・」
「どうぞ。遠慮なく」
「すいません。帰ってもらえないですか?」
「え・・・?」
真っ直ぐに。
何の感情もなく。
森川君は言った。
私の方を見向きもせずに、ただ伝えるだけの行為として。
期待をしていたわけでも諦めていたわけでもないけれど。
『このまま流されるのかな』なんて思っていた私には、驚きの発言だった。
どんなに理性がありヤろうと思わない男でも、こういう場所に入ってしまえば理性を失うもので。
それなりにモテる自覚のある私は、手を出されなかったことがなかった。
そういうイキモノだと。
理性よりも本能のまま生きているイキモノなのだ、と。
私は良く知っているつもりだった。
けれど。
彼は言った。
『帰ってくれないか』と。