だから私は雨の日が好き。【花の章】





「森川君っ!!」




急に開いた扉に驚いたのか、森川君は私を見つめて固まった。

そんな彼に近づきながらコートを脱ぎ、荷物と一緒にソファーに置いた。

そのまま彼の頬に両手を寄せてキスをした。


突然の私からのキスに動揺したのか逃げようとしたけれど、私はそれを許さず。

そのまま彼の口の中へと自分を押し込んだ。




「――――――っっ!!」




引き剥がそうとする彼の力は強く、それに負けまいと必死に腕を首に絡める。

彼に乗りかかるほどの勢いの私に驚きながらも、落としてはいけないというように私を支えてくれる腕があった。


不器用で、頑固で。

それなのに不安そうなその手に、くすりと笑いが漏れた。

顔を話すと心底嫌そうな顔をした彼がいて、私はその表情に満足した。


その顔は、私が山本さんに向ける顔と同じなのだと想った。




「何するんです」




低く、怒りを押し込めた声と同時に、私をソファーに押しのけて立ち上がる。

口元を軽く拭く仕草は、嫌悪以外の何でもないと証明していた。




「私は、山本さんが嫌いよ」


「・・・!?」


「でも、圭都のことは今でも好き。いえ、好きなんて言葉で表すことが出来ないほど」


「・・・」


「だから、身代わりが欲しいの。圭都を想い出せる、身代わりが」


「・・・そんなもので、気持ちが埋まるわけ――――」

「埋まらないわよ」




言い切った私に、何を考えているか分からないという目を向けてくる。

私を見る目つきが酷いものであればあるほど。

馬鹿な自分を思い知ることが出来るから、それでいいと思った。




< 93 / 295 >

この作品をシェア

pagetop