だから私は雨の日が好き。【花の章】
「森川君っ!!」
急に開いた扉に驚いたのか、森川君は私を見つめて固まった。
そんな彼に近づきながらコートを脱ぎ、荷物と一緒にソファーに置いた。
そのまま彼の頬に両手を寄せてキスをした。
突然の私からのキスに動揺したのか逃げようとしたけれど、私はそれを許さず。
そのまま彼の口の中へと自分を押し込んだ。
「――――――っっ!!」
引き剥がそうとする彼の力は強く、それに負けまいと必死に腕を首に絡める。
彼に乗りかかるほどの勢いの私に驚きながらも、落としてはいけないというように私を支えてくれる腕があった。
不器用で、頑固で。
それなのに不安そうなその手に、くすりと笑いが漏れた。
顔を話すと心底嫌そうな顔をした彼がいて、私はその表情に満足した。
その顔は、私が山本さんに向ける顔と同じなのだと想った。
「何するんです」
低く、怒りを押し込めた声と同時に、私をソファーに押しのけて立ち上がる。
口元を軽く拭く仕草は、嫌悪以外の何でもないと証明していた。
「私は、山本さんが嫌いよ」
「・・・!?」
「でも、圭都のことは今でも好き。いえ、好きなんて言葉で表すことが出来ないほど」
「・・・」
「だから、身代わりが欲しいの。圭都を想い出せる、身代わりが」
「・・・そんなもので、気持ちが埋まるわけ――――」
「埋まらないわよ」
言い切った私に、何を考えているか分からないという目を向けてくる。
私を見る目つきが酷いものであればあるほど。
馬鹿な自分を思い知ることが出来るから、それでいいと思った。