だから私は雨の日が好き。【花の章】
「でも、貴方を見るたびに圭都を想い出すことが出来るなら。貴方に抱いて欲しいと想ったのよ」
「馬鹿なことを」
「じゃあ、私以上に山本さんを想い出せる人がいる?貴方の傍に」
苦虫を噛み潰したような顔で、反論が出来ずにいるようだった。
言い返すことなど出来ないとわかっているからこそ、悔しい気持ちもよくわかった。
「私は、貴方に抱かれる度に圭都を想い出す。貴方は私を抱く度に、手に入れられなかった彼女だと想えばいいわ」
「そんなことに、意味はあるんですか?」
「あるわ。気が済んだら、やめればいいのよ」
「そんなこと俺には――――――」
「出来ないの?意気地がないのね」
嘲るように笑った私を、乱暴にベッドに引き倒した。
馬乗りになる彼の目は私を映していて、苛立ちと悔しさの混ざった色をしていた。
「男を馬鹿にするのもいい加減にしろ」
初めて聞いた彼の本当の声に、背筋がゾクリとするのを感じた。
剥き出しの本性を持っているとは想っていたけれど、想像よりもずっと荒々しく凶暴だった。
魅力的とは言い難く、今の彼は痛々しい。
そんな痛々しさをお互いに慰め合えれば、それでよかった。
「私は、貴方を圭都だと想って抱かれるわ」
「俺は、あんたを時雨だなんて思えない」
「それでもいいわ。ちらつく影に、どうせ重ねたくなるでしょうから」
それ以上は何も言わせてもらえなかった。
彼が私をベッドに沈ませて、私はその中へ溺れた。
二人の間に、愛などない。
あるのは同情と未練だらけの感情だ。
こうして、私と森川君は『身代わり』を手に入れた。