だから私は雨の日が好き。【花の章】
嫌味なメモを取り上げて、そのままテーブルに戻した。
名前も何もないメモ。
悪いことをしている暗号のようで、くすぐったい気持ちになった。
鞄から携帯を取り出すとメールランプが光っていて、すぐに内容を確認する。
メールは千景からで、お詫びと報告のメールをくれていた。
千景らしい丁寧さと気遣いに嬉しくなり、そのままメールを返すことにした。
メールを送った後、そのままソファーに座る。
目の前の煙草に手を伸ばすのは勇気がいることだったが、今はそれに触ることが出来る気がしていた。
緑色の、その箱。
一人残されたラブホテルで、何度こうしてこの煙草を吸っただろう。
圭都と一緒の時。
いつも私が置いてけぼりだった。
どんなに優しく抱き締めていても、朝起きた時にはぬくもりさえ残してくれてはいなかった。
時折忘れる煙草は、確かに圭都がいた証のようで。
残された煙草に口を付けることも多かった。
「――――っ!ゲホッ、ゲホッ!うわ・・・キツイなぁ」
久しぶりに吸ったので、思ったよりもキツく感じた。
寝起きの空きっ腹には少し刺激が強すぎたようで、思い切り咽こんでしまった。
匂いが充満しても、今は苦しくない。
昨日、彼は確かに私を救ってくれたのだと、そんな風に想った。
泣きながら大きな腕に抱かれたのに、悲しさは何も残ってはいなかった。
一緒に泣いてくれた彼が、私の心をとても軽くしてくれた気がした。
「とりあえず、嫌味の文句くらいは言っておくか」
煙草を吸いながら携帯電話に手を伸ばす。
メモを掴んで、そこに並ぶアドレスにメールを打った。