だから私は雨の日が好き。【花の章】
「何トゲトゲしてんの?」
「トゲトゲなんてしてないわ」
「してる」
苦笑いを零して、煙草の煙を吐き出した。
半年が過ぎて変わったことは、情事の後に突然敬語になり、そして突然敬語じゃなくなることだ。
それも、決まって私が刺々しい言葉で自分を悟られないようにした時に、彼は敬語をなくす。
一般の人よりも感情に敏感な人だから、それを感じ取られてしまう。
普通の女なら『こんなに自分に気が付いてくれるなんて』と喜ぶのかもしれないけれど。
感情の変化に気付かれて居心地が悪いと想ってしまうのは、私だからなのだろう。
「俺は、聞いて欲しいですよ」
「何を?」
「時雨の話です。あいつがどんなヤツなのか、俺は貴女に知って欲しい」
「聞くくらいは、聞いてあげるわよ」
「そうでしたね。だって杉本さん、俺の話を遮ったことないじゃないですか」
だって、知ってるもの。
相手の話をすると幸せな気持ちになれることを。
そして、ただ聞いてくれるだけでいい、ってことを。
「聞いて欲しい時って、ただ聞いて欲しいでしょ?だからよ」
「じゃあ、杉本さんにもそういう時があるってことじゃないですか?」
「そりゃ、あるわよ。私にだって」
「じゃあ、言えばいい」
「・・・言わないわよ」
「頑なですね、貴女は」
煙草を消して、森川君が立ち上がる。
私も煙草が吸いたいなと思ったけれど、ベッドに戻って来る彼と入れ違いにソファーに向かうのは、何故か憚られた。