潤うピンクの魅惑キス
act:01

チッチッチッチッ。
時計の針が無情にも鳴り響く。やばい。短い針がもうすぐ9に重なりそうだ。

完全に出勤時間を過ぎている。

だが今は、時任栄江にとって、出勤時間のことは問題ではなかった。


「会議に遅刻する……!」


両手に資料を抱えて、カバンを脇に挟み直す。わたわたと階段をあがっていると、最上段で盛大に足を踏み外した。

バサバサッ。


「あぁぁ~!」


資料が宙を舞う。

今日の会議は、自分が率先して担当になった、初めてのプロジェクトだった。
それなのに、会議初日に大遅刻。
おまけに階段を踏み外したせいで、資料が道端にひれ伏している。

さっきから携帯がうるさく鳴いている。
上司には一応、バスが遅延していたことにして言い訳を伝えているけれど。

今日の会議は社内だけのものだったのが、せめてもの救いだ。取引先が出席するとなったら、まず間違いなくこの状況は首が飛ぶだろう。

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