ラブレターを貴方に
息を切らして、ようやくその場所に辿り着く。
本来、待ち合わせする筈だった時間はとっくに過ぎていて、私は息をととのえながら、ぐるりと辺りを見回した。
「あはは……ほらね……」
そんな筈ないじゃない。
私は思わず俯き、涙がポタリと落ちては静かに消えていく。
何で、もっと早く気付かなかったんだろう。
そうしたら、こんな思いしなくて済んだのに……。
折角、おめかししてはりきったのに、一番見てほしい相手がいないなんて、本当に惨め。
私はバカだ……。
「二宮さん?」
突然呼ばれたその声に、振り返る。
そこには、息を切らした高橋君が立っていて、その姿に私は言葉をつまらせた。
「高橋……君?」
「来てくれると、思わなかった」
眼鏡をはずして、ブランドの服に身を包むその姿は、まさに人気モデル高橋翔太で。
無造作に仕上げられたヘアーに、ストレートに向けられる魅力的な瞳。まるで、別人のようなクールな雰囲気に、躊躇いを隠せない。
「ビックリさせてごめん。でも、二宮さんにはこっちの俺も知って欲しかったから」
そう言うと、突然彼の腕がのびてきて。
私の腕をぐいっと掴むと、ふわりと身体を抱き寄せた。
その瞬間、私は彼の胸に飛び込んでいて、両腕で優しく包まれている。
「凄い、俺、いつになくドキドキしてる」
仄かに香るワックスの香り。それは、いつもはつけない、彼の匂い。だけど、何故か私の胸はいつもよりドキドキしていた。
私のつけたお気に入りの匂いも、彼に届いていたらいいな。
「大好き……高橋君が……」
「本当に、俺でいいの?」
「うん、高橋翔太がいいの」
クスっと彼は笑うと、静かに私を見つめる。
「もう、違ってたなんて言わせないから」
そう言うと、彼の優しい瞳が近づき……私達の影は一つに重なる。
まるで時が止まったみたいに感じるキスは、二人だけの世界への魔法みたいで。
そんな彼に気付いた周りの女性達が、キャーキャーと騒ぎだすと、彼は慌てて私の手を取り走りだした。