お姫様と若頭様。【完】
Take8
【泪side】
今にも泣き出しそうな瞳に、
正直戸惑った。
俺の服の袖を掴むその手は小さく、
だけど震えは大きくて、
涙を溜めるその大きな瞳は実に儚げで、
守ってやりたくなった。
あんなにも強いと、
絶対敵わないと確信した相手に、
今度は守ってあげたいだなんて
どうかしてると自分だって思う。
でも理屈じゃないんだよ、これは。
俺がこいつを求めてる。
ヒシヒシと伝わってくる感情に、
俺は身動きが取れないんだ。
"何て言ったらこいつは元気になる?"
"何て言ったらこいつは喜ぶ?"
"何て言ったらこいつを救える?"
"何をしたら
こいつは振り向いてくれる?"
何を考えたって、
何を言ったって、
何をしたって、
きっとこいつは救われない。
今俺が何かをしたところで、
こいつが堕ちるのを止めないことは、
俺には目に見えてわかった。
せめてもと思い、
こいつの小さな手を包んだ。
それだけでこいつの表情は、
ほんの少しでも和らいだ気がした。
これだけのことなのに緩むこいつは、
きっと誰よりも繊細で、弱ってる。
誰か…誰かって、
叫んでいるように見えるんだ。