お姫様と若頭様。【完】
するとー
「…ちげぇ……。紅蓮の姫じゃなく…
"お前が"気に入ったって言ってんの」
「………は?」
地位…じゃないの?
「別にあいつらの助けが
来なくてもイイ。
その時はただ、
お前が俺の女…黒蓮の姫になるだけだ」
…黒蓮……姫…。
「な…に…それ?」
「俺らは黒蓮ーGokurenー
その姫は黒姫ーKurohimeー
総長…つまり俺の女」
この人が総長…。
なんとなく予想はついてたけど。
それに黒蓮…紅蓮に似てる。
「私は黒蓮の姫にはならない。
…たとえ助けに来なくても、
それが裏切りだとは思わない」
勝手に私が仲間だと
勘違いしていただけ。
彼らは仲間だと思ってなかったんだと
少し…ガッカリするだけ。
「…でも、紅蓮には手を出さないで。
……ヨルには、
…皆には傷ついて欲しくないから」
「……お前が俺らの元に来ると言うなら
あいつらには手を出さねぇ」
「おい、銀ーGinー!!」
銀…そう呼ばれたこの黒い人に
さっき私を襲おうとした人が怒鳴る。
「黙れ、刃牙」
その声に不満そうに黙ったそいつ。
「……ホント?」
今はこの人たちの言うことを信じるしか
私に手立てはないけど。
「あぁ…お前に嘘はつかねぇ」
…無表情で感情なんて
ほとんど読み取れないけど、
この人は嘘を言ってない気がする。
私が考えあぐねているとーー
「……お前に考える時間をやる。
…零波ーReihaー」
「ハッ」
零波…そう呼ばれたあの黒い人は返事をして私の拘束を解いた。
ーガチャン
ーガチャガチャ
ーガシャンッ
音を立てて解かれる拘束を
ただ呆然と見つめていた。
さっきの合図だけでこれをしろってこと
だと分かったのか…。
…二人は結構付き合いが長いのかなぁ?
じゃなきゃあれだけで判断するなんて
普通出来ないよね…。
そう考えているうちに拘束は解かれた。
繋がれていた手足が自由になり
とても軽くなる。
襲われそうになった時抵抗しようと
動いた所為か手首・足首が少し赤い。
それに本当にちょっとだけど
ヒリヒリする。
視線を上げてお礼を言おうとすると…。
「逃げようったって無駄だぞ、女。
…もう手は打ってある」
顎を掴まれて無理矢理上を向かされた。
少し手に力が入っていて痛い。
痛みに顔を歪めると…
「零波」
銀と呼ばれる男が彼を呼んだ。
その声に彼は手を離す。
「…零波の言った通り手は打ってある。
あいつらの中にスパイを送り込んだ。
情報は筒抜け。
…意味分かるよな?
お前が何をしようと
俺らは全て把握出来る。
行動を起こそうなんて考えるな。
結果は見えてる。
…お前に考える時間をやる」
…もう一度時間をやると言った彼。
私に考える時間を。
私が皆を裏切って
紅蓮を助ける為に黒蓮の姫になるか、
姫にはならず
そのまま殺られるのを黙って見てるか
…答えなんて一つじゃない。
考える余地なんてない。
それなのに私に時間を与えるのはなぜ?
「俺らの元に来ると言うなら別に、
少しくらい時間をくれてやる」
…そうか、私がこっちを選ぶってこと
分かってるからそう言うんだ…。
最後の時間をくれてやる
ってことでしょ?
「…わかってる…
…ここに戻って来なきゃって。
……でも、時間をくれてありがとう」
きっと彼らに会えるのは最後だから。
もう笑顔では会えないから。
…少しの時間だけど、
もうちょっとあなた達と一緒にいたい。
……そんな僅かな望みを、
あなた達は許してくれますか?