お姫様と若頭様。【完】
【夕梛side】
俺が1年の中で最も地獄なのは
まさに今この時だ。
彼女を苦しませる根源。
そんなこの方を彼女の部屋まで案内する
この地獄の時間。
彼女は今、何を思って、
何をしているのだろうか。
どんな表情で、
どれほどの物を抱えているのか。
そんな思いが頭を支配して、
どうしても彼女の部屋へは
辿り着かないようにと
絶対に無理なことを願ってしまう。
でもそんな時に限って
辿り着くのは一瞬なのだ。
大きな壁…否、扉が、目の前にある。
それに手を伸ばして、
躊躇いがちにノックをする。
…出ないで、返事をしないで。
そうすれば
あなたが傷つくことはないのに。
そんなことを願ってしまう俺は
確実に執事失格なのだ。
いくら何が出来ようとも
私情を挟んでしまう執事なんて最悪。
俺はどうすればいい?
「どうぞ」
とてもとても落ち着いた声が
中から聞こえた。
開けたくない。
…それでも開けなければ。
ーガチャ