お姫様と若頭様。【完】
【楪side】
ーガチャ
「失礼致します。
奇十院ーKujuinー様が
いらっしゃいました」
落ち着いた夕梛の声。
…でも分かるよ。
そんな怒らないでよ、夕梛。
本当に少しだけだけど
いつもより口調の強い夕梛。
その原因は間違いなく、
夕梛の後ろにいる彼で…。
私の代わりに
いつだって夕梛が怒ってくれる。
それだけで私は少し救われてるの。
「楪」
彼の声が響く。
それにすら正直、嫌悪感を拭えない。
「態々ご足労頂き、
ありがとうございます、奇十院様」
ぺこりとお辞儀をし、彼を見る。
容姿は完璧。
家柄も、頭脳も、全て。
…うわべだけは。
「お茶をお持ち致しますので
少々お待ちください」
夕梛が綺麗なお辞儀をして去る。
その背中に何度、
行かないでと叫びそうになったことか。
毎回毎回、
私も諦めが悪すぎるのね。