お姫様と若頭様。【完】
Take15
ー数時間後ー
「楪様…」
扉が静かに開いて、
その隙間から漏れる光が
静かに私を照らした。
心配そうに私の名を口にする執事は
何も出来ない歯痒さに
唇を噛み締めていた。
「……やめて、夕梛…。
自分を傷つけないで。
あなたの所為じゃないわ。
…全部、私の所為。
あの人を受け入れられない、私の所為」
身体が拒否して、
何度迫られても無理で…。
その度にあなたは
悔しそうに顔を歪めるのね。
私の所為であなたの綺麗な唇を傷つけてしまうなんて、私は望んでないから。
…だから、気にしないで。
「ですが、お嬢様…!」
珍しく口答えする夕梛に
突き放すように言い放つ。
「私が言っているの。
あなたに私の所為で傷つかれるとか、
本当に迷惑なのよ。
あなたの顔に傷がついたら
私の所為だと噂を立てられるわ。
そんなの迷惑ったらない」
冷たい視線で。
だけど心にはたくさんの謝罪の言葉。
"私の所為で傷つけてごめんなさい"
"こんな私を心配してくれてありがとう"
"何も言わずに、
ただ耐えさせてごめんなさい"
"いつもありがとう"
そして
"こんな私でごめんなさい"
私の所為で夕梛は
あの人に目をつけられてる。
"何故自分の主を説得しないのか"
"峯ヶ濱の執事として、
主の管理も出来ないのか"
"あんな出来損ないは執事失格"
そんな言葉をあの人が電話で話しているのを聞いたことがある。
…夕梛はこれ以上ないくらい、
とても優秀な執事なのに…。
彼の最大の汚点は、
主が私なこと。
もしも他の人に着いていたら、
彼は必ず活躍出来たというのに。