お姫様と若頭様。【完】





ーある日ー





生徒会役員で部活をしていなかった俺は
同じく部活をしていない美華を
放課後遊ぼうと誘おうとしていた。


向かった先は彼女の教室。




HRから随分と時間が経って、
彼女はいるかわからない。



だけどこの時、
何故か彼女はいる予感がした。



この時間は部活に行った人がほとんどで
部活がない人はもう友達と話し終えてか
帰宅している。


階段も廊下も、静まり返っていた。


僅かに聞こえるのは、
運動部の掛け声だけ。


それだって正直、遠くに聞こえるから
余計に静かさを助長させてる気がする。




彼女の教室まで後もう少し。



そんな思いが俺の歩みを速くさせる。




生徒会の会議が今日は早く終わった。

お陰でまだ日が沈むまで時間はある。


ワクワクと高鳴る胸を抑えることなく
彼女の教室の扉に手を掛けたその時ーー

















「ねぇねぇ美華、
神原君とどうなの?」

「最近よく一緒にいるじゃん」


「ん〜?」


「どうなのよ、
勿体ぶらないで教えなさいよ」

「あの神原君と一緒にいれる女子なんて
美華くらいしかいないって」

「そうそう、美華以外の子が近づこうと
するとファンクラブの子が睨むし」



ファンクラブ…そんなのがあったのか。


俺には関係ねぇな。


俺の所為で誰かが傷つくなんて。


そんなの正直、どうでもいい。




「ねぇ美華!どうなのよ!!」

と興奮したように聞く彼女の友達。


そもそも俺ら、
友達以上にはならないけどな。








「後もう一押し、
って感じなのよね〜」







なんとなく、
この先を聞いては行けない気がした。


頭の中で危険信号が鳴り響いていて、
この先を知れば後悔するとわかった。


動きを止め、気配を消した。



…真実なら、
たとえそれがなんであれ知りたいから。

















「神原?なんかあの財閥の跡取りなだけ
あって顔も性格も地位も。


彼が纏っている才能(ブランド)は
全て"一級品"。






文句無しよね、
あの"超完璧人間"」





"超完璧人間"





俺が家の為にと相応しい人間を目指した
結果がこれ?


超完璧人間なんて、
ただ皮肉って言った言葉。





「私が彼に求めるものは
財力・完璧な容姿・ズバ抜けた才能・
運動神経・頭脳・周りからの信頼…。






なによりも"地位"





性格なんてこの際二の次三の次なのよ。



超完璧過ぎて怖いくらい。





あんな私に似合う"飾り"いないわよね」



クスクスと妖艶に笑う彼女。








最悪だ。









何が友達だよ。


何が放課後遊びに行こうだよ。





…何が"地位" "頭脳" "才能" "運動神経"
"容姿" "財力" "性格" "信頼"だよ。









…んなの全部、"偽り"じゃねぇか。






俺が元から持ってるものや、
俺が自ら作り出したもの。


その総称が"飾り"





…ふざけんなよ。




てめぇになにがわかる?



分かるわけねぇだろ、
こんな狭間にいる俺の気持ちが。
















「馬鹿な男よね、あの"神原"も」






あいつの中では結局、
俺は"神原"でしかなかった。





…別にイイ。


こんなのにはとっくに慣れていたから。













…正直もう、どーでもいい。





なんて言うかもう…


…アホくさ。

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