お姫様と若頭様。【完】
でも俺は彼女の手を取った。
それは他でもない、
俺自身が楽しむ為に。
彼女は俺があの日、教室での話を
聞いていたことは知らない。
次の日、早速俺と彼女が付き合い始めた
と噂が流れた。
まぁ大方、
彼女自身が流したのだろうが。
神原と付き合えたのだと鼻を高くして
友達に語る彼女の姿が目に浮かぶ。
そんな姿はもう滑稽でしかない。
こうやって俺は落ちて行くのだと、
今更ながら実感した。
彼女の苦しむ姿を見て、
自分が周りの人間を動かしていると、
人々の上に立っているのだと実感する。
上に立つ者、立たれる者
俺がどちらにいるのかと言えば、
それは五分五分だろう。
"神原"としてなら上に立つ者だ。
だが俺個人としては?
こんなことを考えている時点で
俺は上に立つ人間ではない気がする。
神原は表向きは割と大きな会社だ。
…でも裏は?
別に峯ヶ濱に頼まれたわけじゃない。
でも子会社たちは"暗黙のルール"でそれに楯突く敵(クズ)を徹底的に潰してる。
それが会社であろうと
そうでなかろうと。
峯ヶ濱のような大きな会社を狙うのは
会社だけではないのだ。
それに迫る脅威に俺ら子会社たちが
全力で対応する。
そしてそれを受けた峯ヶ濱は
最高の"対応"をする。
それは資金援助であったり
ライバル社の排除であったり、
はたまた"不正の隠蔽"であったり。
それは様々だ。
これは"ギブアンドテイク"だ。
まさにいつかの時代の御恩と奉公のようなこの関係で、お互いどれほど
会社は大きくなったのだろう。
俺にはそんな"闇"を背負って行く覚悟は
あるのか?
…いいや、ない。
心の何処かで、
このまま白くありたいと思う俺がいる。
…もう既に白いとは言えないが。
闇なんて本当は見たくなかった。
でも神原に生まれて来た時点で、
この運命は決まっていたのだ。
酷く反抗したくなって今みたいに誰かを
傷つけることでしか心を満たせない。
…いいや、本当はこんなことをしても
心は満たせていないんだ。
全て終わった後の罪悪感は
虚無感とともに現れる。