お姫様と若頭様。【完】
「ごめん、なんか仕事関係。
…番号プライベート用と
間違えて教えちゃったかなぁ?
あはは、私ってドジだねぇ」
笑顔笑顔…。
絶対に嘘に気づかれちゃダメ。
「なんだよ楪、お前しっかりしてそうで
意外と抜けてるとこあるよなぁ」
いつも通り茶化して来る徹。
そんな彼の持つ明るさに
私は救われていたんだ。
気づかないで…。
「ホントだよ、楪。
危ない人だったらそんなの教えたら
なにして来るかわかんないからな」
いつも周りの人を心配してくれる
優しい頼れる碧志。
皆を優しく包み込んでくれているのは
きっと彼で、その優しさが嬉しかった。
気づかないで…。
「……危ない」
無口だけど観察力が鋭くて、
皆を影から見守ってくれてる。
沈黙になったとしても、雰囲気が良くて
駆生とならそれも心地いい。
気づかないで…。
「大丈夫か、楪?
俺手伝えることあったらするから」
優しくて頭良くて私の側にいてくれて。
下のメンバー皆を引っ張るのって
簡単なことじゃないのに、宗志は
それを当たり前のようにやって見せる。
気づかないで…。
「楪」
気づかないで。
「楪のことだから失敗はしないかも
しれないけど、気をつけろよ?」
気づかないで…。
いつもいつも私のことを見守って、
欲しい時に欲しい言葉をくれて…。
必要な時には手を差し伸べてくれて…。
紅蓮総長だから喧嘩も強くて、
戦ってる姿は格好良くて…。
私の自慢の彼氏だよ。
だからこそ…気づかないで…。
「楪がどこか行かないか…。
凄く心配なんだよ…。
楪は俺たちの手の中から簡単に抜けて
…フラッと消えそうに見えるから」
気づかないで…。
「私は…皆の側にいたいよ。
出来るだけ、一緒にいたい」
本当に一緒にいたいと願ってるの。
あなたがいてくれたから、
ここ最近楽しいと思えるの。
気づかないで…。
あなたを守りたい…。
「…い、行くね、私。
さっきの仕事のメールで
用事入ったみたいなの。
…ごめんね、ヨル、皆。
もっと一緒にいられなくて」
本当はもっとずっと、せめて家を継ぐ前
までは一緒だと思ってた。
結局、別れることになってしまうけど、
それでも一緒にいたかった。
「別に気にすんな、
急がないとやばいだろ?」
徹…。
「…また」
駆生…。
「また来いよ、楪」
ソウ…。
「送ってく」
ヨル…。
…こんな人たちが私の周りにいたのか。
それはもう、私の誇りだよ。
差し出された手を握った。
大きくてゴツゴツした硬い手。
それでもヨルの優しさが溢れている
暖かい手。
私は一生、
この手を忘れたくない。
「…朝起きて、遅くなって渋滞に嵌って
楪が家の前にいなくて……。
あの時凄く焦った。
楪がいなくなって、
危険な目に遭ってるかもって。
誰に聞いても知らないって言われて、
あぁ、俺の所為かなって…。
あの時以上に焦ったことないと思う」
あの日…私が黒蓮に攫われた日、
ヨルはただ渋滞に嵌ってただけだった。
私のことを見張っていた人が
中々ヨルが迎えに来ないのを利用した。
別に騙されたとか、
そんなこと思ってない。
ただ、ヨルが無事で良かったなぁって。
だから私は普通に倉庫に来て、
家で爆睡していたと答えた。
そうすれば皆心配しないと思って。
でも、皆が心配してくれたら嬉しいけど
…私が信用されてるのかが不安で…。
もしかしたら心配すらしないかもって。
私がここからいなくなっても
誰も悲しまないだろうって…。
「私は…きっと大丈夫。
峯ヶ濱を背負って行くんだもの。
抵抗するし、
何があってもヨルの側にいたい。
…たとえ離れてしまっても、
私だけは、それは変わらないから」
もしヨルが側にいたいと思わなくても、
私はヨルが好きだから…。
一緒にいたいって臨んじゃう。