お姫様と若頭様。【完】
「ソウ、先代だって心配してんだよ。
ソウが点を取れるのなんか知ってるし
確かに留年はしねぇ。
けどよ、俺たちが高校生で居られるのは
今だけなんだぞ?
それをわかってて
先代は言ったんだろうが!」
声を上げて怒る茶芽。
美紀と同じで、
ユズのこと大好きなはずなのに…。
あの日のことを少ししか知らないこいつらだけど、俺よりしっかりしてる。
「ユズがこのまま
目を覚まさなかったら…。
そう思うとここから出らんねぇ。
あの日の光景が目に焼き付いて、
ユズを連れて行こうとするんだ。
お前らは見てねぇからわからねぇかもしれねぇけど、本当に…
本当に酷かったんだよ。
あの人の"赤黒い血"もそうだけど…
何より酷かったのは、ユズだ。
酷く狼狽えてて、
今にも後を追いそうな雰囲気で…。
あの人の安否も聞かぬまま飛び出した。
あの時の背中はとてつもなく小さくて、
今にも消えてしまいそうな白。
あの人色だったあいつは、
あの日のあの時真っ白くなった。
まるで何もなかったかのように。
現実を受け止めきれなくて
自分の世界の色を、自分からなくした。
俺が言えることなんて、
もう何もなかったんだよ…」
あの時声をかけていれば…。
そう思った日は数知れず。
紅蓮に戻って来た彼女を見た時、
正直もう大丈夫だと思ってしまった。
あの時彼女がどんな決断を下していたかなんて全く知らずに。
「俺がどれだけ裏切りに
敏感になったと思う?
それはユズの為だろ?
あいつが傷つかないようにと気を張って
皆を疑って…。
そうすることでしか、
あいつの守り方なんてわからなかった」
傷つかないように、傷つかないようにと
彼女を守って来たつもりでいたのに、
まさか自分が
彼女を追い込んでいたなんて…。
「……ゅ……ず?」
美紀の声に反応して顔を上げると
綺麗な涙を溢す彼女。
人差し指でなるべく優しく拭うと
嗚咽を立て始める彼女。
眠ってから初めて、
彼女に変化が見られた。
「茶芽、医者呼んでこい。
…早くッ!」
そう俺が叫んだ時、
彼女の瞳は開いた。
彼女の瞳は今まで見たことのない、
不気味な光を宿していた。