お姫様と若頭様。【完】



「そういえばあいつらはどうなった?」

その言葉に押し黙る幹部たち。


「赤司も闇虎も組の奴らに厳重に守られていて族なんかでは入り込めません。

彩狼の陣宮は組を動かして赤司と闇虎を
探しているようです。

あとユズのことが気がかりなようで
俺らのことを嗅ぎ回っています」


陣宮組か…。あそこは最近一気に勢力を
伸ばして来た。

見つかるのも時間の問題か。



「それとですね…」


言いづらそうに言葉を濁した永山。


「なんだ?」


「…それが聖さんがあの族の姫でして」

「はぁ!?!
聖ちゃんが彩姫!?!!」


「はい。聡さんに内緒でなったそうで。

赤司は手を出そうとしたんですが
一応俺らが止めて…。

触れたようですが…」


「お前ら聡さんに知られたら
もう一度ここに戻ってくると思えよ」



あの人の怒りは半端ねぇな。


その言葉に急にしゅんとする幹部たち。



「あーぁサトくんに怒られちゃうよ〜」


我が彼女洸様。

聡さんをサトくんと呼でいる時点で
超大物だ。








「んっ…」



その時小さな久しぶりに聞く
声が聞こえた。



「楪、大丈夫か?」


「んっ…凱瑠?」


おーぅっ!上目遣いとかこいつがやったら破壊力半端ねぇな。


「ここが病院ってことはわかるよな?」

「うん…でも私怪我してたの?」


そう言って体を触る楪。


自分に怪我がないから
不思議がっているようだ。


「お前半年も寝てたんだぞ?

今の日付わかるか?」


「半年も寝てたんだ…。


ってことは20○○年12月?」


日にちは曖昧にしろ今の日付だ。


じゃあその前の空白の時間は
どうなっているんだ?




「じゃあお前1年前のこと
覚えてるか?」「おい、凱瑠!!」

俺の言葉に驚き、止めるアツ。


「1年前…ま…え……?」


楪の為に思い出さないってことも
必要かもしれない。


でも以前の楪なら、
きっと思い出したいって思うだろ?




「…紅蓮……に会った。

凱瑠…に会った。


…それからアッくんにも会って
紅蓮の皆に会って…」


頑張って思い出すように
目を彷徨わせる楪。


「初めて会ったのは誰だ?

誰に紅蓮まで連れて来られた?」



「連れて来て…くれたのは……

ョ…よ……背が高くて、優しくて、
紅蓮の総長で……


うっ…思い出せない……
なんで…なんで思い出せないの…。


こんなに…好きだったはずなのに…」




そう言って頭を抱えた楪。



「おい凱瑠、もうやめろッ!」


俺の胸ぐらを掴んで怒鳴るアツ。



「…あぁ…悪い、アツ…楪」



「教えて?凱瑠。

…どうしても思い出せないの?

こんなに好きだったはずなのに。


今でもあの人のことを
私の心が覚えているのに」







でも俺は何も言えぬまま、
楪の病室を後にした。


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