お姫様と若頭様。【完】


きっと皆は私が悪いとか思ってない。

それほど優しい人たちであることは
この短い時間の中で理解した。




ただ、中でも1番気がかりなのが…


「池谷さん、おはようございます」


「…あぁ」



今日も来てくれた池谷さんに
いつも通り挨拶をする。



でも、いつも名前を呼んだり話したりする時、一瞬だけど眉を寄せる。


凱瑠に聞いたところ、前は呼び方も違って敬語じゃなかったとか…。



そう知りつつも相手を警戒してなのか、
つい敬語になってしまう。


きっと1番"本当の私"のことを
心配してくれてるんだと思う。




どうしてだか、

いや、私が記憶をなくしていると
知った時から、

私は"今ある自分"を"偽物の自分"と
考えるようになった。

皆もなんとなくそんな風に思っている
気がしたから。


私からしてみれば前の私が"本当の自分"


そう思うとなぜだか、
この空間がとても窮屈なものに感じた。


皆に私の存在を否定されているようで、
怖くなった。



実をいうと、

記憶の断片を見たあの日から
私は夢を見るようになった。



いつも決まって、"私"が出て来る夢。



私の体を返せと迫って来る夢。








私だって本当は、
あなたにこの体を返したいというのに。






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