お姫様と若頭様。【完】


「すみません、凱瑠さん。

俺が側にいながら…」


立ち上がり頭を下げる。

きっと彼女の1番の理解者に。



本当は自分が誰よりも側にいて、
1番理解してると思ってた。



なのに今はこんなにも彼女が遠い。



彼女の何も知らなかったのだと思える。




「いや、俺の管理不足だ。


…元はと言えば、俺が様子を見て来るようあの時言ったんだ。

きっと今回のことは俺が1番悪い。


大切な総長を傷つけるきっかけを作って
本当に悪かったな…」


そう言って頭を下げる凱瑠さん。


悪いのはきっと俺なのに。





「んっ…凱瑠。

…と、池谷さん。
今日もありがとうございます」


起きたかと思えば
体を起こし頭を下げるユズ。



…えっ?池谷…さん?



「楪、記憶戻ったんじゃねぇのかよ?」


「きお…く?

ごめんなさい、まだ戻っていないけど」


は?さっき思い出したはずじゃ…?



「そっ…か…」


脱力したように椅子に座った。




まだ、あの声を聞けない。





「あ、そうだ楪。

学校、行くか?」

「ん?学校?…あ、そっか。

凱瑠の学校なんでしょ?」


「あぁ。

坂月 霰っていう子が親友でクラスメイト
らしいから、事情を話した。

まぁ記憶がないってことだけな。


その子に色々任せたから。

明日から行けるぞ」


「ホント!?

私会長だったんでしょ?

そういうのしっかりやらないと
峯ヶ濱として恥だから…。


もうすぐにでも行きたい。


…あっ、どこから学校行くの?」


「あぁ、まぁ起きたばっかだし様子見ってことでここから行ってくれ。
許可はとってある。

留学してたことになってるから
そこは大丈夫だ」


そう言ってニコッと笑う凱瑠さんは
やっぱりユズに甘い。


ユズはやっと学校へ行けると知り
ホッと安心しているようだった。







「張り切り過ぎてあんま無理すんなよ。


峯ヶ濱だってこと、
お前は少し気にし過ぎだ」



…どうしてか、
記憶がないユズを"ユズ"と呼べない。



きっとユズは記憶があろうとなかろうと
頑張り過ぎてしまうから。

たとえ俺が言っても言わなくても、
ユズは無理をするんだろうな。



「ありがとうございます。


峯ヶ濱として失敗したりしませんから」


失敗する云々じゃないんだけど。


「そんなこと心配してねぇよ。

お前が失敗するとか思ってねぇし。


体壊すようなのすんなって言ってんの」


凱瑠さんが叱る。

誰よりも凱瑠さんが言った方が
ユズも納得するだろう。






ユズはきっと学校へ行けば無理をする。


それはきっと変わらない。



こんな時、やっぱり一緒の学校にすれば
よかったと今更ながら後悔。


















ユズを学校に行かせる。






この時の判断が
後に大変な事件を巻き起こすなんて…。



ユズのこと、
俺はやっぱり理解してなかったんだな。















運命の歯車は、
また静かに狂い出すーー。

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