お姫様と若頭様。【完】


ーバタンッ!


少し錆び付いて重くなった扉を
思い切り開ける。





「楪…ッ!」


なぜか彼女はここにいる気がして。


きっと、彼女が思うあいつに
なによりも近づける方法。




「楪…いるのか…?」


だけど彼女からの返事はなくて…。


諦めて帰ろうとした時だった。




「…ック…うぅ…ヒック…
…ヒッ…ぅん…ヒック……ョル…」


小さな声だけど今、
確かに"ヨル"って…!



柵へと近寄り暗闇の中目を凝らす。


すると、蹲る人影。







「楪…」


「凱…瑠ぅ……」



瞳からは大粒の涙。


それを見ただけで
胸がぎゅっと締め付けられる。


今まで絶対に泣かなかった彼女。



だからこそあの事件以来の涙に
酷い困惑と、安堵。

彼女がまだ感情を表せるのだと…
不安を吐き出せるのだと知り、

やっぱり彼女の心を動かせるのは
あいつしかいないと改めて思った。



「お前なぁ…急にいなくなんなよ。

悠山が珍しく他人の心配してたぞ」


あいつは基本、他人のことなんか
全く興味なんてなくて。

そんな何事にも無頓着なあいつが
唯一気にかけることと言ったら
彼女のことだけで…。


彼女のことを心配する
あいつはまさに、

"氷帝"の名を馳せた紅蓮の
超冷酷幹部の面影はない。



「ゆー…ちゃ…ヒック……ごめ…なさ…ぅっ……」

嗚咽を必死に抑えて話す彼女。


涙で濡れた頬は
暗くてよく見えないが、

僅かに灯る明かりから、
少し赤いことがわかった。

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