お姫様と若頭様。【完】
【楪side】
私のこと嫌いにならないで、
なんて、口が裂けても言えなくて。
それは言うのが恥ずかしいからか
ウザがられるのが怖いからか。
どちらにしろ私は臆病で、
檻が空いているのに出ようとしない
外の世界を知らない、
そして怖がる鳥のようだ。
いつかは羽ばたけると信じて
私は頑張ってきた。
家のことも頑張って、
どんな仕打ちも陰口も耐え、
ここまで上り詰めた。
それでも家の人達は満足せず、
より上を望んだ。
…正直、
頑張ったなんて思わなかった。
そんな感情さえ
持ち合わせていなかったから。
でも今思えば"あぁ、あの頃は
私なりに頑張っていたかな"って、
彼のおかげで思えるようになった。
自分のこと、
やっと褒めれるようになった。
もし今目の前にあるこの柵が、
鳥が入っている檻だとしよう。
もしこの柵がなくなって
自由に羽ばたけるとしたら、
私は迷わず飛び込めるだろうか?
…そのチャンスに。
もう1歩踏み出せば羽ばたけると
いうのに、私は未だ足踏み状態だ。
何て間抜けなのだろう。
ペンギンが氷の淵で飛び込もうか
迷っているのと同じね。
その先にはお望みの魚が泳いでいて
この広い空とは違えど、
海という大きな青い空が
広がっているというのに。
私はまだそこに、
手をのばすことも出来ない。