彼女を好きなワケ 【逢いたい~桜に還る想い~・番外編】
*触れてはならぬ花~晴虎の恋~*
※柊子の前世“澪”=“椿”(嫁ぎ先でつけられた名前)の夫、“久我晴虎(クガ ハルトラ)”の視点から描いています。※
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「冷たい! これはなにかしら?」
はしゃいで空に掲げられた榎世(カヨ)の小さな手。
「雪か……寒いと思ったら」
「“ゆき”? どんなもの?」
「天から舞い降りてきているよ」
「天から? どんな形? とと様───………あ」
次の瞬間───榎世は表情を消して、口を噤んだ。
「………誰も見ていないよ、榎世」
榎世のほっとした表情に胸が痛む。
───この小さな尼寺が、榎世の生きる全て。
たまに会いに来る私を、“父”と呼ばぬ約束を守り、ここでひっそりと暮らしている。
盲た、何も映さない瞳で、何を思って生きているんだろうか。
可哀想な、愛しい榎世………。
「……ねえ、となりに来て?」
手探りで縁に腰かけた榎世は、自分の隣を叩いた。
「うん……」
足を揺らす榎世の隣に座り、『いるよ』の合図に手のひらをつつくと、榎世は続けた。