彼女を好きなワケ 【逢いたい~桜に還る想い~・番外編】
『………郁? もしもし?』
黙り込んでしまった俺に、電話越しの瑤子さんの心配気な声。
「───えっと……うん、大丈夫。
国道はかなり車走ってて明るいし、ひたすら真っ直ぐだし。
ここからなら、もう30分かかんないで着いちゃうから。
瑤子さんに心配掛けて、ごめんなさい」
慌てて、取り繕いながら───
トーコさんの中に還ってきてしまった“澪”の記憶は、消せない。
俺の中の、トーコさんへの気持ちも、消せない。
……“真”の記憶に引っ張られるとか、もはやそんな事態じゃなくなってることくらい、自覚ある。
そんで、限界なことも。
トーコさんの誤解を利用して、杏崎を彼女だってことにして、トーコさんを遠ざけようとしても、
逆に自分の首を絞めるだけで、無意味なことも。
……今度こそ、静かに彼女の幸せを願いたいのに。
自分の目論みとは裏腹に、どんどん気持ちがふくれ上がってくる。
トーコさんが、好きだ。
トーコさんに触れたい。
だから───海に行ったあの時……