彼女を好きなワケ 【逢いたい~桜に還る想い~・番外編】
ふと、少し表情を翳らせた杏崎が、足をぶらぶらさせながら、呟いた。
「あーあ、───あたしさあ?
彼女の辛さも……安西の苦しさも、少しでも失くしてあげたいけどさ。
………そんなの、おごりなのかな。
実際、何の役にも立ってないしなぁ。結構悔しいんだ」
「杏崎……なんで」
杏崎は、俺とトーコさんの血縁関係を知ってるのに……
そーいや、俺に合わせて、いまだに周りへ“イトコ”扱いしてくれてるのに、今更ながら気がついた。
それまでの表情を一掃して、ニッと笑った杏崎は、
ブレザーのポケットからなにやら小さなパンフレットを出して、おもむろに俺に手渡すと、
「これ、あげる。
彼女、服飾のゼミって言ってたよね? こーいうの好きでしょ。
かなりレアなとこだから、一緒に行っても、会う人なんていないんじゃん?」
杏崎はよいしょ、と立ち上がると、「委員会サボんじゃないよ」と、後ろ手をひらっと振って、行ってしまった。
………誰に聞かれても大丈夫なように、最後まで名前を出さず、
“彼女”──トーコさんと、俺を心配をして。