好き、だから抱きしめて



結局、私はお人好しだ。手には藤宮の分のお弁当までぶら下げている。



するとマンションの入口付近に綺麗な女性が佇んでいた。誰か待っているのだろうか?



私は特に気にもせずエレベーターに向かう。



「…ただいま」



わざわざ買って来てやったのにおかえりの一言も無しですか…。別に期待している訳でも無いけどね。



リビングで私が食べ始めたところに藤宮が部屋から出て来るとテーブルにあった自分の弁当を取り上げた。



ちょっと、なんか一言あってもいいよね?芸能人て礼儀も知らないのかとがっかりした。



『弁当サンキュ』



突然、頭上から降って来た言葉に顔を上げた時にはすでに後ろ姿だった。猫背の背中が部屋に消えて行く。



その姿に私はこの男はそんなに悪いヤツじゃないのかもと思えた。
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