嫉妬する唇
違う違う。
アイツとあたしはただの幼馴染み……





「の、はずでしょ?」




鏡に写るあたしは、行き先を見失った幼子のように情けない顔をしてる。



「ハハハ……馬鹿みたい」



渇いた自虐的な笑みが溢れる。




だってそうでしょ?
他の女にキスするアイツを見て初めてアイツが欲しいと思ったなんて。




そっか……あたしの中でアイツはとっくに『男』だったんだ。




知らなかったのはあたしの頭と心。
身体はとっくに知っていたみたい。





気付く前から失恋とか……バカでしょ。




呆れすぎて涙も出ないわ。




ガクンと落ち込んだ心は、身体を一気に冷やしていく。


さっきまでの疼きなんて幻だったのかもしれないと思えるほどに。






あーもう!と、髪の毛を掻き乱したくなるのを、グッと堪える。




だって、昨日施したヘアパックのお陰で艶々な髪に加えて、思いの外上手くいった毛先の緩やかカール。




別に同郷の男とどうにかなろうなんて思ったわけじゃない。



久々に会う同姓に対しての見栄は、あたしだけが特別持つものじゃない。





女同士の見えない虚勢の張り合い。





………なんか、それさえもくだらなく思えてきた。
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