月夜に願いを…
……
血飛沫が舞う。
綺麗だ。
まるで赤いバラの花弁の様に空中を鮮やかに飛び回っていた。
意識が覚醒される。
共に右腕に焼いた鉄を押し当てた様な熱さにも似た鋭い激痛が暴れ回った。
「…痛!!」
男は、その激痛の根源、右腕に視線だけを動かした。
右腕が無い。
最初からそこに無かったかの様に、肩から先が跡形も無く消失していた。
その現実に気付くと同時、目の前を上から下に向けて肌色の物体が通り抜けた。直後。
グチャ…
湿った音が足元で響いた。
次は、右腕に向けていた視線を音源に向けた。
何となくはわかっていた。
腕だ。
指の並び方から右腕と言う事がわかる。
誰の?
そんなのはもう分かりきっている。
自分のだ。
その現状を全て把握するまでの時間は、一瞬の間だった。
男は全てを把握すると同時、目の前に居るルナを睨み付けた。
「貴様あぁ!!」
体を動かす度に、右腕の断面に振動が走り、激痛が駆け巡る。
だが、怒りに狂った男は、そのどす黒い血液を大量に放出する右腕にも目をくれず残った左腕を素早くルナに真っ直ぐ向けた。
握り拳から、人差し指と中指を前に突き出す。
形はグーの二本の指を密着させた感じだ。
その二本の指先に小さな破裂音を発生させながら、紫電が駆け巡る。
その紫電が一瞬にして電気の塊と化し、その指先から勢い良く雷が放出
するよりも早く、再び男の左腕が宙に円を描きながら舞った。
「っガァ!!!」
一拍遅れて、左腕の断面から大量の血液が放出された。
グチャ
更に一拍遅れて、本日二度目の湿った音を響かせ、左腕が地に落ちた。
指先は未だに紫電を纏っていた。