御主人様のお申し付け通りに
step 1 俺が全否定で躾てやる
私は、トイレに行きたくてアパートの裏手にある一軒家へと駆け込んだ。

裏庭を通って、裏手の扉から私はいつも入るのを許されている。

「お、お邪魔します!」

トイレに行きたくても、頻繁に借りるのが嫌で我慢する。

だけど、我慢できなくなった時は、やむを得ず駆け込むのだ。

私は慌てて、トイレへと直行した。

もっ、漏れるーっ!!

戸すら半分開けたまま、綺麗な洋式トイレの便座を勢いよく開けるなり、さっさと済ます。

…スッキリしたぁ。

私は、パンツもジーンズもしっかり履いて、トイレから出る。

すると、壁にもたれながら、相変わらず殺気だった視線ビームで、私を呪い殺そうとしている奴が居る。

「イマイチ、色気にかける」

「知るか」

「そんな口の聞き方したら、もうトイレは貸さんぞ?」

「う…すいません」

嫌な奴だ。

「いいか、おまえは俺の所有している犬小屋アパートに格安で住む、訳有りの女。爺さんの好意で、おまえのワガママな条件を呑んで住まわせてもらってる。要するに拾われたペットを、またペットとして引き取ってやったようなもんだ」

コイツはどんだけの毒舌術。

普通の話し方が、できんのかい。

イチイチ、嫌な言葉を入れ混ぜる。

魔物だ、魔物。

人間の顔した悪魔だ。

「躾がなっとらん、おまえの以前の旦那は相当、おまえを甘やかしていたんだな。おまえのその生きざま、俺が全否定で躾てやる」

「…いらん世話じゃ」

「おい、今なんつった?」

私は立ちはだかる、長身の痩せマッチョの腕をくぐり抜けて、自分のアパートへと戻った。

バカか。

ふざけんな。

おまえは、一体どんだけ何様きどりなんだよ。

躾だってさ。

私の事、全否定だってさ。

何も私の事情も詳しく知らないで。

私の事を知ったように言わないでよ、バカ!

……。

35歳にもなって恋人でも何でもない男に、言われたい放題。

色気ないってさ。

色気!?

おまえにゃ、出してないだけだよ!

ここへ来て、まだ1ヶ月もたってないのに。

優しさの欠片もないんだから。

嫌いだとか、面倒なら、ほっといてくれたらいいのに。

意地悪するなら、もっと普通に堂々と意地悪してくれたらいいのに。


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