御主人様のお申し付け通りに
「そこを何とか?」

「それは無理よ。大家さんに他にいい物件ないか聞いてみたら?」

他にいい物件って、永田の家しかないじゃんよ。

あちゃ、またアイツの無愛想な顔が浮かぶ。

「あんたの選択で、今の現実は有る事を忘れちゃダメよ」

ブチッ!!

っと、また冷たく電話を切られた。

たぶん、父が帰って来たからだろう。

…はぁ~あっ…どうしよう。

もう一度、永田本人に直接頼んでみよう。

それしかない。

そう決めたはいいが、なかなかタイミングが合わない。

最近、アイツ帰りが遅いから。

家に帰って来ても、トイレに行けなくて。

せせこましい姿して、近くのコンビニに借りに行くから、いやらしくて仕方ない。

その度に、いらん買い物までして。

お金ないのに。

今夜もアイツの帰りが遅い。

今月までに返事くれって言ってたから、今日辺りにきちんと取り止めて欲しいと、お願いしなくちゃ。

すると、アパートの前で車が停まった。

タクシー?!

私は窓から見ると、永田が出て来た。

珍しいじゃん、タクシーで帰宅って。

私は、すぐさま部屋から飛び出して、永田の側へと近寄った。

「ねぇねぇ、永田っ。お願いがあるの」

ちょっとブリッコして言ってみる。

「…ヒックッ、ヒックッ…なんだ、おまえは?」

うぅっ!!…すんごい酒臭い!

しかも、目がいつもより更に殺気立っている!

「ちょっと、酔ってるの?もしかして…」

私が背中に触れようとすると、

「キモチわりぃ手で、俺に触れんなボケ」

な、なんじゃコイツ!

「ねぇ、大丈夫?」

私ってば、それでも心配してあげるんだから優しい女だねぇ。

「うるっせーな、ブスが」

む、ムカツクなコイツ!

永田は一瞬足元がフラついて、吐きそうな顔をした。

いつも冷静沈着で動きのない男なのに、コイツでも泥酔いするんだぁ。

「うへっ…キモチわりぃな…どっか行けってバーカ」

な、殴りたいコイツ!

永田は家の鍵を探すが見つからないみたいで、私は殴りたい拳を抑えて、一緒に探してあげる。

「早く探せよ!…チンタラしやがって…ブッ飛ばすぞオラッ!…」

私が探してるやん、結局さ。

しかも、隣りで罵声を吐きながら、ジタバタされる。

「永田どうしちゃったの?何か変だよぉ」

「トイレ行きたいんだよ、俺は!…イチイチうるせーな!…漏らしたら、おまえ責任とれよ!…オエッ…」

うはっ…臭い。

かばんの中には無くて、仕方なく着てる作業服のポッケをまさぐる。

「だから、俺に触れんなって言ってんだろ!…この男好き!変態女!」
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