御主人様のお申し付け通りに
あんた、本当にどうしちゃったの?

あっさりと、私のお願いを聞き入れたりなんかしてさ。

束縛だとか、手放したくないとか。

私を、とことん甘やかしてくれちゃうみたいだし。

永田は夢中で私を抱く。

寂しがり屋で甘えん坊か。

それは最初っから?

それとも、そうなったのは何かのキッカケがあったから?

永田の両親は、あのお爺さんと普通に暮らしているみたい。

だけど、永田は一人でこんな一軒家に住んでる。

一人の割に、こんな何部屋もある家に住んでるから、寂しくなるんじゃないの?

「…トシコ…んん~っ…」

私の肌に、永田は自分の肌を密着させて、感じていた。

「よしよし」

頭を私は、撫でてやる。

永田は私を見つめる。

恋しそうに、切なそうに、見つめる。

何秒間も、見つめ合う。

自然にお互いの指先が、お互いの頬を同じタイミングで触れ合う。

自然にお互いの顔が近付いて、同じタイミングで鼻先を擦り合う。

自然にお互いの口唇が、同じタイミングで少しだけ触れた瞬間に濃厚なキスをする。

永田…。

好き…。

食事は俺が作る。

と、言われてしまったら…。

やれない訳でもないのに、やらない訳にはいかないでしょ。

先に帰って来るのは、私なのに。

今夜は、かに玉。

夕方まで玉子が、98円で有ったから。

安い食材で…って。

このケチケチして家庭的な自分が…本当は
何か凄く嫌だ。

フン♪フン♪フ~ン♪

ヤバい…ひっくり返せない。

すると、永田がタイミングよく帰って来る。

「うわっ!!何をしてんだよ」

「…かに玉」

「無理な事はやらんでいいって言ったろ?」

無理な事?

無理な事とまでは、言ってない。

「ほら、どけ」

永田は作業服のまま、台所に立つ。

パパッと、かに玉をひっくり返して火を弱めた。

「うまいね」

「おまえよりはな」

なんだ、それ。

「おまえは料理したくないんだから、こんな事しなくていいんだよ。自分の食べたい時だけ自分で作ったらいいんだよ」

と、私を台所から遠ざけようとする。

何か嫌な言い方。

「そうだけどさ…」

「他人のために自分の時間を犠牲にしたくないんだろ?」

「…そうだけど…そうなんだけど…」

でも、家に一緒に住んでるのに、私は何もしない訳には…。

「どうした?」

「…だって、だって…」
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