御主人様のお申し付け通りに
「おまえが求めてるのは、こういう扱いをして欲しいって事なんだよ?」

えっ…。

ズキンと胸が痛くなった。

永田は私の手を握る。

「何か、文句ある?」

優しく、嫌な言葉を吐かれる。

「…ないです」

「よし、着替えてくるから続きをよろしく」

頭をポンポンされた。

もう私の性格、見透かされてる。

手元にあるカバンから、スマホが点滅する。

元旦那からのメール。

土曜日の件でだ。

朝から会う予定みたい。

「時間の指定は、そっちで任せる」

と、慌てて永田の居ない間にメールを素早く打って送信する。

ガタガタッと足音が近付くから、カバンの中に、ささっとまた閉まった。

「いつ頃帰って来たの?」

永田は、腰掛けながら聞くから、

「1時間くらい前。玉子買って、帰って来た」

「そう。俺、来月からもう少し早めに帰宅出来る事になったから」

「えっ?何で?」

「仕事の都合上ね」

「ふぅ~ん」

もしかして、好き過ぎて束縛ってやつ?

例のさ。

皿に盛った、かに玉を永田はパクリ。

「ちょっと中身が柔らかい方が、美味しいんだよな、こういうの。トロトロ系ってやつ。ウマイウマイ!」

美味しいそうに、永田は食べてくれた。

というか最後にひっくり返してくれたのは、永田だから。

私が一人で作った訳じゃないから、誉められても困る。

「まぁ、そこ座れ」

私も座る。

「トシコも言っちゃ悪いが、こんな感じだ。中身はトロトロ、外枠がやたらとガチガチ。おまえはどうやっても今のままでは完璧じゃない。でも俺はそれでイイと思ってる」

また意味分かんない、遠回しでバカだと言ってるな、コイツ。

「説教好きだねぇ。牧師かなんかやれば?」

私は、かに玉を大きく一口でパクリ!

「トシコは自分の理想を完璧にやりこなそうとしてるだろ?」

ヤバッ、喉につっかえた…!

バシッ、バシッ!

私は胸を叩きながら、お茶を飲む。

「俺も、他人も完璧なトシコなんざ、求めてないんだから、自分の思い描く理想が全てじゃない。だから、もっと気楽に考えて物事をやれっての」

「…で、何?」

説教でしょ、今の。

全然、話の内容、聞いてなかった。



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