御主人様のお申し付け通りに
時間は刻々と過ぎていく。

永田は何も知らずに一人で、私の荷物を業者へと引き渡してくれている。

元旦那には、やっぱり本当の事は言えない。

永田と交際している。

永田と住んでる。

管理人なる永田に、束縛されてるだなんて。

昼食を済ませて、海辺へとドライブしながら、昔の話をしていた。

車から降りて、少しだけ外に出る。

海辺の風が強くて、さりげに元旦那は私に身体を引っ付けてきた。

「寒くないか?」

「えへへ、平気」

「まだ、少し時間があるけど。どっか入らない?」

すぐに分かった。

ホテルへ入らない?って意味だって。

「ごめん、私も夕方までには帰りたいの」

私はもう、あなたには身体を委ねる事ができません。

…永田が、待ってるから。

寂しいのは、私も同じ。

その寂しさは、あなたへと向けられているモノだとしても。

だけど、今どうしても寂しいからって、それをあなたに埋めてもらう訳にはいかないの。

「約束があって…」

永田の顔が浮かんで消えない。

「約束?」

「破ると怒られるの、だから本当に急だけど、帰らなきゃ」

「分かったよ」

元旦那と、また車に乗り込んで、来た道を引き返した。
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