御主人様のお申し付け通りに
元旦那は、しばらく何も言わずに車を走らせていた。

怒ってるかな…。

車がコンビニに着いて、

「おまえ雰囲気が、何だか柔らかくなった」

「そ、そうかな…」

「俺と別れた直後と、今と何だか全然違う」

「……」

「貧乏生活にしては、少しプックリしたようだし」

どうしよう、バレてるかも。

「…俺の勘、当たってるかもな」

元旦那はコンビニの中を見つめる。

そして黙って指を差されて、その先を見ると。

……な!永田っ!!

うわっ!!ヤバい!ヤバい!

「さては俺にも嘘付いて、管理人にも嘘付いてるとか?トシコ、そりゃ二股はまずいよ?」

「いや、あの…。ちょっと、車もう走らせてよ」

私は慌てふためいて、身体ごと隠れた。

バレる!バレる!

「俺は怒らないよ、別れた身だからね。でも、アイツは恐らく相当なまでに怒るぞ?」

「やだ!マジにお願い!」

私はジタバタする。

「トシコ、遠慮するな。俺は今更何も言わない。管理人って言ってるけど、本当は新しい恋人って奴なんだろ?」

元旦那は微笑む。

その微笑みに、一筋の涙が流れた。

「私…」

「嘘だけはつくな。おまえはもともと、そんな事はできない女なんだから」

「ごめん」

「幸せになってくれよ」

私はその言葉で、全ての元旦那との糸が切れたように思えた。

「罰として、ここで降りてアイツの所へ行け」

運転席から、助手席のドアを開けられる。

ガチャン…。

もう、出て行け。

そんなふうに思えた。

「今まで、本当にお世話になりました。ありがとうございました…」

「うん…。さよなら」

「さよなら」

元旦那は私を見る事もなく、私が車から降りてドアを閉めると、すぐに急発進させて、その場を去って行った。

さよなら…私の元旦那様…。
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