御主人様のお申し付け通りに
私はもう、永田のその言葉に自分の心が堪えられなくなって、

「バカバカ!…もういいよ、バカバカ!…」

「トシコももう限界?俺ももうこの話するの限界…」

「私には私の決めた幸せがあるの。たぶんその女も、自分の決めた幸せは最初から決まってたと思うの…」

「だろうな」

そう言いながらも、寂しそうに甘えるように私の胸元の服をギュッと永田は掴んだ。

私はその手に触れて思った。

こんな温かい手。

こんな優しさも激しさも、冷たさも全部兼ね揃えて、私を求めてくれる人を。

私には、そんな裏切るような事出来ない。

いや、そこに包まれてる今の温もりを感じたら…

「…私の幸せはここにある」

今、ようやく気が付いた。

「誰かに幸せにして貰えるならば、永田に幸せにして貰いたい」

「俺に?」

私は強く言った。

永田は少しビックリしていた。

でも私は続けて力強く言った。

「裏切らないよ絶対に。私は突然消えたりもしない。怒らせたり困らせちゃうかも知れないけど、その時はキツク叱ってくれればいい。永田になら謝るし、永田の言う事も聞く。だからお願い…私を幸せにして?」

永田は起き上がり、うなずいた。

「するよ、当たり前だ」

ごめんね、悲しかった過去の話を聞き出しちゃって。

そんな事を私が知ったからって、永田への態度が変わるわけでもないのに。

でも永田のその時の悲しみを考えてしまうと…


「おまえが泣く事じゃないだろ?」

と、私の涙を拭いてくれた。

「弱さや汚点は誰にも見せたくないのが普通でしょ?…でもね、永田にだけは素直に聞いてもいい?」

「いいよ、何?」

私のポリシーから外れた言葉。

理想と現実は違う。

でも私の理想とは外れた言葉。

現実的な未知なる自分の言葉。

「私、永田と居たら変われるかな?」

それを幸せだと、認めたくなかったんだけど。

「どう変わりたいの?」

私は永田が好き。

私は永田が好きなの。

だから、その、あの、えっと…。

「例えば…」

「例えば?」

なかなか、言えない。

プライドが邪魔をする。

未知なる自分を想像すると、やっぱりどっかキモチ悪い。

他人のために犠牲となる自分。

旦那や子どものために犠牲となる自分。

我慢しながら制限しながら束縛される自分。

やっぱりその先のモノを、幸せだと一括りできなくて。

そんな事をする自分は、やはり自分らしくなくて。
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