御主人様のお申し付け通りに
19時頃に、家の近くで待ち合わせ。

メールで

「もうすぐ着く」

ってさ。

今夜は何を食べさせてくれるんだろうね。

私はオンボロアパートの部屋に鍵を掛けて、庭を通り抜ける。

…ドカッ!

「痛っ…」

見上げると、また私の前を立ちはだかる男。

「くそてめぇ…」

永田かよ。

「ケッ、どいて!」

私は、避けて行こうとすると、

「ぶつかっといて、謝りもしない。無礼な女だ」

ぶ、無礼!?

私は、こんな無礼な男に無礼だと言われた事に腹が立って、また戻って強く言った。

「あんたに言われたくないわい!」

ファックユー!

私は中指を立てる。

「はっ、くだらん。ところで、何だもう新しい男が出来たのか?離婚したばかりで。…淫乱だな」

いっ、淫乱!?

「あんたのが変態な癖に!」

どういう奴よ、コイツは。

見上げて睨むと、冷たい視線で見下された。

「おい、痴女。欲情してんだったら、俺にいつでも言えよ。適当に構ってやるぞ」

「アホじゃないの、さっきから。離婚した後は、色々とまだ片付けなきゃいけない内情があるの」

…あ、しまった。

元旦那だと、口滑らした。

「へぇ~、前の旦那と会うんだ」

「とにかく、私の事はほっといて!」

永田は腕をまた組み直して、庭先から路駐している車を見る。

「着いたみたい。まぁ、早くキリ付けて、戻って来いよ」

そう言って、自分の家へと帰って行った。

キリ付けてって、キリはとっくに私から付けてある。

内情なんて、はっきり言ってない。

戻って来いよ…か。

何だか、またその言葉にドキッとしてしまった。

私の帰る場所は、…永田の場所。

そんなふうに聞こえてしまった。

食事先で、元旦那に訪ねられた。

「一つ聞きたいんだけど。おまえって男と住んでるのか?」

ブブーッ!!

私はウーロン茶を思わず吹き出した。

「そんな訳ないっての!」

「そうだよなぁ」

吹き出したテーブルを、フキンで拭いた。

「もしかして、あの背の高いヒョロッとした作業服の男だと思ってない?」

「おまえのアパートの方へ歩いて行ったから、てっきり」

「なわけないし!」

私は唐揚げを口に頬張りながら、強く言った。

「あの人、あのアパートの管理人の孫だよ」

元旦那は、受け皿にサラダを盛って私に手渡す。

「孫?孫がなんでまた」

「あのオンボロの裏に一軒家があってね、アイツはそこに住んでるの」

手渡されたシーザーサラダをガツガツ食べる。

「ほぉほぉ」

その後は、相変わらず私の仕事の愚痴聞きしてもらって、たらふく食べて喋って、帰りの車の中で眠ってしまった。
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