モン・トレゾール

「ヒュー、ヒュー! カップル成立ですかぁ?」


周りからそう騒ぎたてられると、カァッと顔が熱くなった。


「あらあら、そのまま結婚しちゃえばいいのに」


私に曲をリクエストしてくれたご婦人までもがその会話に加わってくる。


――私が遼と結婚?


こんな注目を浴びて、段々収集がつかなくなってきている。


親の離婚で散々な目に合ってきたからか、自分の結婚というものに対してのイメージが湧かない。


それに、肝心の遼は黙ったままよ。


「……遼?」


そう恐る恐る名前を呼ぶと、遼はきつく抱き締めてくれていたその腕を離した。




「皆川ッ!!」


私の名前じゃない。


その焦ったような声で急に現実に戻される。


――そうだ、私大切なことを忘れてたわ。


遼には、今……彼女が居るのよね?
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