モン・トレゾール
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店の近くにあるタクシープール。
彼女を軽く抱き抱えると、先生はそのままタクシーの後部座席へと乗せた。
「とりあえず、私の病院に連れて行きますから」
自ら医者だと宣言した先生の言葉で、店の中の人は全員ホッと肩を撫で下ろした。
「……でも、ご家族の方にも連絡しないと」
店長の言うことは最もだった。
「遼、アナタ一緒に行ってあげなさいよ」
今夜は一緒に居たいけど、こんな状況だとそうもいかないわ。
目が覚めた時に近くに知ってる人がいないと彼女も困るだろうし。
「いや、もう電話したから」
「電話って……誰に?」
「ウチの社長――コイツの旦那だよ」
まるで知り合い程度の子の旦那を紹介するようにアッサリとそんなことを口にした彼に、私は驚き目を丸くした。
社長が旦那って――遼、それってただの不倫じゃない。
「梨花、今オレが不倫してるって思ってないか?」
ジッと疑うような遼の目。
「別に……遼がどこで誰と何をしようと、私には関係ないし」
動揺した私は、気づくとまた心にもないようなこと言ってしまった。