モン・トレゾール


「本当にそう思うの?」




真っ白な渦の中の中心で。


制服姿の17歳の私が、今の私に向かって悲しそうな瞳でそう語りかけてくる。



「……そんな顔で見ないでよ……あなただって一緒でしょ? たった今、私の目の前で先輩に裏切られたばかりじゃない!」


「そう、確かに裏切られたわ。

だけど、傷つけられたからって、自分も他人を傷つけようとするのは違うんじゃない? 

――そうやって心を閉ざしてるうちはずっと、あなたは一番大切な人を傷つけ続けてるのよ」


「……私が……大切な人を傷つけてる?」


ジリジリとにじり寄るように過去の自分に追い詰められると、どういう訳か後退りするスペースが無くなっていく。


「……ねぇ、それってどういう意味……?」




――……え? 


目が回るくらいに、グルグルと回りだす視界と共に急にその渦が大きな円を描くように回り出す。


ドンと背中を打った感覚はあった。


「……なに、これ?」


深い深い灰色の渦の中から突然放り出されたその場所でゆっくりと目を開くと、飛び込んできたのは真っ白なグランドピアノがある情景だった。
< 109 / 147 >

この作品をシェア

pagetop