きみと繰り返す、あの夏の世界
【XXXI】変えた人
──どうやって学園を出て、どうやって駅前までたどり着いたのか、あまり記憶にはなかった。
ただ、頭の中では水樹先輩の言葉が何度も繰り返されていて。
重い心と力を無くした体を引きずるように歩き、電車の走る音に顔を上げたら駅前だった。
水樹先輩と一緒に帰れる日は、この場所で『また明日』と笑顔で別れて。
少しの切なさと、それに勝る幸せな気持ちを胸に灯してバス停へ向かっていたのに。
今日は1人で、涙を堪えながらバス停を目指していた。
電車の発車ベルが聞こえてくると、ああ、これが聞こえても水樹先輩はのんびりと改札をくぐってたなぁ、なんて思い出す。
間に合ったのか心配になってLINEで確認してみたり、大丈夫だという返信に頬を緩めたり。
だけど、そんなささやかで温かい時間はもう……望めない。
『俺はもう、君と関わりたくないんだ』
水樹先輩が、望んでいないから。