銀盤の国のお姫様
 仮面舞踏会が始まり、一蹴り、一蹴り滑っていく度に、すうっと伸びて、私が演技に引き込まれるような心地がする。

 手のひらを自分に向け、目から下を覆い隠しながら、最初のジャンプに向け滑る。

 戸惑いながら、慣れない舞踏会の場を彷徨うように滑る。

 顔を隠しつつ、一定のスピードを保つ。

 目はジャッジを見たり、観客を見たり、コーチを見たりときょろきょろさせている。


 視線が定まったとたん、そっと“仮面”を外した。

 少しステップを踏み、後ろ向きの助走から、左足のエッジの内側で踏み切ってジャンプ。
 左回りに回って、一二三、右足で着氷。

 三回転サルコウだ。
 基礎点は四.二だが、きれいに確実に決めた。
 加点が期待されるジャンプ。


 次のジャンプが問題だ。 
 このまま波に乗ってくれ。

 そう願ったら、華音有と目があったような気がした。

『大丈夫。』

 そう言っているような気がした。

 再び、手で目から下を覆う。
 “黒の仮面”からのぞかせる目が、ジャッジをとらえた。
    

 
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