銀盤の国のお姫様
「今日は本当にすごかったよ。」
「まあ、明日が大事だから。」

 フリースケーティングの得点は、ショートの一.五倍〜二倍ぐらい得点が出る。

 三分の一が良くても、残り全部が悪かったら、全体が悪くなってしまう。自分を戒めるためにこう言っているのだろう。
 もう今日の演技のことは聞かないようにしよう。でもこれだけは聞きたい。

「そうそう、最後のポーズのあとなぜか動かなかったよね。」

 少し顎を上げ、天井を見上げて戻してから、

「まあ、見えたんです。」

「何が?」

 私の反応を確かめないで部屋へ慌てて戻った。
 私はぽかんと口をあけ、華音有の様子を見守る。

 外は完全に日没し、月が突然見えて輝くように、華音有が何か持ってここに戻ってきた。

 ソファーに座り、私に差し出すように持ってきたものをテーブルに置いた。

 一枚の写真。それには六人の人が写っている。

 三人ずつ二列に分かれていて、後列の三人は立っている。真ん中に今より幼い華音有。左右に、彼女の母と陽一がいる。
 前列三人はソファーに座っている。世崎夫妻の間に目録を持ったおじいさんがいる。

 私は華音有のお母さんから聞いた、あの話を思い出す。



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