銀盤の国のお姫様
 コーチにひどく怒られても、どんなに成績良くなくても泣かない華音有が、これほどまでなくとは。

「かおちゃん、泣くんだ。」

 悪気はないが、思わず言ってしまった言葉に傷ついたのは、華音有の母。

「まあまあ。」

 恥ずかしくて、早く泣き止んで欲しいから、急いで宥めるが、全く効果なし。

 無理矢理スケート靴を脱がせて帰ろうと思ったとき、

「かおちゃん。」

 陽一が近づき、声を掛けた。
 この頃は陽一は現役のトップ選手で、クラブの子供たちの憧れの的だった。そんな人が声掛けたと言うのに、全く反応なし。わんわん泣き続ける。

「もう華音有!」

「お母さん、怒らなくても大丈夫です。

 かおちゃん、陽兄(ヨウニイ、陽一)がここを潰そうとする悪者を倒すから。」

 ピクリと反応して泣き止み、顔を上げ、陽一と目を合わせ、

「本当に?」
「本当さ。陽兄一人だけじゃ足りないから。かおちゃんも手伝ってくれる?」
「うん。」

 泣いたせいでぐちゃぐちゃになった顔から、喜びがあふれでている。

 その様子を見て、陽一は驚いた。
 華音有は小学四年生で、正義のヒーロー風に言ったら幼いと呆れられ、乗らないかと思っていた。
 だが、結果はこの通り。体中から、纏っているオーラから、あちこちから、やる気で満ち溢れている。
 
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