銀盤の国のお姫様
「華音有、そろそろだよ。」

 母親に肩を叩かれ、やっと立ち上がった。

 子供たちは皆、列に並んでいた。
 華音有が並んでいるはずの場所が空いてたから、そこに入る。

「じゃあ、いこうか。」

 今回のショーの監督を務める基一の声で、子供たちはリンクに上がる。

 ファンファーレが鳴り響き、子供たちが踊り始め、ショーが始まった。

 オープニングはトップ選手の周りを、華音有を含む子供たちが滑るという感じだ。

 いざ始まると、気分が落ち込んでいたのが嘘のように、華音有の表情が明るくなる。まるで暗い中光が二つ差し込んでいる中、三つ目の光が徐々に差し込むように。

 華音有は昔から氷の上に立つと、心の奥に仕舞い込んでいる本当の感情を表に出す。

 今は、スケートが楽しいという気持ちが緊張に圧勝しているから、上を向いて、微笑みながら滑っている。

 この頃の華音有は、スケートが嫌なことをすべて忘れ、楽しい気持ちにさせてくれていた。

 あの頃の華音有は、今よりずっとのびのびとしていた。
 映像を見たり、思い出したりする度に痛感する。

 彼女の伸びやかさを奪ったのは・・・
 天才ゆえに巻き込まれた激しい争いからか。
 スケートの恐ろしさを知ってしまったからか。
 彼女の心の成長からか。

 私がこうして取材しているのも原因の一つであれば、申し訳なく感じる。


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