銀盤の国のお姫様
 そして、前を向いて、助走から、左足のエッジを外側に倒し、前方に重心をのせた同時に、右足を振り上げて、高く舞う。
 左回りに回転して、一、二、三、半。
 後ろ向き、右足で着氷。

 うさぎにとって、客の前で決めた最初で最後のトリプルアクセル。
 それから、バンクーバーオリンピックシーズンに右膝を大怪我したのをきっかけに、トリプルアクセルはおろか、女子では世界初の四回転サルコウも跳ばなくなったから。


 こんな運命を知っても知らなくても、華音有は、心を撃ち抜かれたように、驚いた顔のまま、身体が硬直してる。

 そんな状態で、また和歌子が声かけた。

「いつか、跳べるようになるといいね。」

 華音有はこの言葉は覚えてない。
 それもそのはず、

『とにかく、凄かったんです。
 頭がぼぉっとして、身体が動けなくなるほどですよ。』

と振り返るほどだ。

 そんな彼女に、さらに和歌子が

「さっ、あれ、今やってみな。」

 と言って、背中をポンと押した。

 押された感覚で我に返った華音有は、首を左右に慌てて振る。

 でも、

「大丈夫。」

 ウィンクまでされてしまった。 



< 47 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop